その事件は、唐突に始まったんだってばよ。









狭間での出会い

ナルト編

1
















「里の人間が、300人以上もいなくなった!? それ、本当か!? 綱手のばあちゃん!」
「……ああ。残念だが、今も人数は増え続けてる」
「…………………」


 里に戻った俺を待っていたのは、五代目・火影である綱手のばあちゃんの悲痛な声だった。


 渡された辞書くらいの分厚い資料と、目の前に仁王立ちで腕組みをしている、綱手のばあちゃんを見比べながら……俺は顔を引き締めていた。


 事態の深刻さが、ばあちゃんの顔から嫌でも分かる。



 しっかし、いつまで経っても変わんねーなあ。ばあちゃんてば。俺はクセでずっとばあちゃんって呼んでるけど、若作りしてっから、目の前に立つ火影の綱手サマは、18になったばっかの俺と同じ年くらいに見える。

 これで60歳間近なんて……絶対に詐欺だ。




「お前たちを呼び戻したのは他でもない。人員が足りないと判断したからだ。見回りを増やしても、事件は続いてる。単なる失踪や事故と判断するには不自然すぎる。かといって、事件と判断しようにも、情報が何もない。分からないままだ」
「……暗部は?」
「すでに2小隊を動かしている。加えて、正規部隊は5小隊を中心に、アカデミー生、下忍を含め70人を導入し、二次被害がないよう、スリーマンセルで警備に当たらせているが……」
「それでも、行方不明者は増えるばかり………ってことか」



 まさか、俺が里をしばらく離れていた間に、そんな事態になっているとは、思いも寄らず。


 けどよ。そんだけの人数を警備に回しても、まだ足りないってどーいうことだ?

 いくらなんでも、不可解過ぎる。だって、暗部2小隊、正規部隊が5小隊プラス70人ってことは、木の葉の忍が、総勢100人だぜ?




 俺は、そのばあちゃんの言葉を受け、自分の隣りに立つ人物を見た。




「……ほー。そりゃまたケッタイな話だのう」


 白髪を揺らしながら腕組みをしたガマ仙人・自来也のじっちゃんが、苦い表情を浮かべてる。

 多分……俺と同じことを思ったんだろう。




 俺とじっちゃんは、一緒に旅に出てた。里を出たのは半年ぐらい前かな。情報収集のため……っつー名目だったけれど、実際は修行の一環として、だった。

 そんな中、木の葉の鷹に突然呼び戻されて……。



 急いで戻った俺を待っていたのは、超不可解な事件だったんだってばよ。








 木の葉で今、起きている事件は……里の住人を脅かす、大量の失踪事件。

 綱手のばあちゃんは、そのキレイな肌の眉間に皺を寄せて深くため息をついた。



「始めは子供ばかりがいなくなり、親がここへ飛び込んできてな。その内、老若男女問わず、だ。だが、これだけ警戒しているのにも関わらず、失踪者はあとを絶たない」
「作為的……と考えるべきだの」
「ああ。だが、その糸口が掴めないのだ」
「フム……」


 じっちゃんは虚空を見上げ、しばらく逡巡した後、俺を見た。


「しばらくは別行動とするか。お前は綱手に協力しろ」
「ああ! 分かってるってばよ! でも、じっちゃんは?」
「ワシは裏から情報を探る」
「よっしゃ! 俺が帰ってきたからには、事件解決だぜ!」


 だって俺がいなきゃ、事件が解決しねーって、ばあちゃんが判断して呼び戻したんだろうから!

 俺が、ぱぱっと解決してやるぜ!

 やっぱ俺ってば、期待されてんだなー。フフフ。




 なんてったって、上忍だし! ヒーローだし! 次期火影だし!!




「……だが、妙だの」

 じっちゃんが小さく呟く。

「え? 何が?」

 その言葉に、思わず聞き返す。

「いや……ワシの情報網に、この里の失踪事件が引っ掛からなかった、というのが不可解じゃ。こういった大きな情報……否、小さな情報であったとしても、旅をしていても必ず耳に入ってしかり、だからの……」
「……言われてみれば」




 今回のこの事件のことは、この里に着くまで、俺もそーだし、じっちゃんも知らなかった。



 確かに、妙だ。


 まさかとは思うけど……情報を操作されていた?

 いや。第一、誰に?

 今は、それを判断する材料が少なすぎる。







 ……ったく。しゃーねーなあ。



「むう」
「じっちゃん。悩まない、悩まない! それは、調べれば分かることだってばよ」

 俺がガッツポーズをすると、じっちゃんは面白そうに笑った。



 考えたって始まらねーことは考えないで動く!

 これが一番だってばよ!




 窓の外。夕闇に支配されていく夕日の赤さに染まってく、久しぶりの故郷の町並みを見下ろして。

 俺は気合を入れ直す意味も込めて、額あてを縛り直した。





 この事件……このナルト様が、ぜってー俺が解決してやるってばよ!
























「ひっさしぶりだってばよ! サスケ!」
「……うるさいのが帰ってきたな」
「まったまた。嬉しいくせに!」
「どアホめ」


 綱手のばあちゃんからの資料に一通り目を通した後、俺が木の葉郊外の見張り台に訪れる頃には、辺りは真っ暗だった。この一帯に配置されている2小隊と、その他大勢の指揮を任されていたのは、サスケだった。

 サスケは、この事件の総指揮者にも任命されてる。


 木の葉をぐるりと覆う高い塀。その上には、人がやっと3人、立てるくらいの小さな見張り台が、等間隔に作られている。おそらく、この3人で1チームなんだろう。
 また、見張りを行う上での拠点として、東西南北の真ん中に小屋が建てられており、今回の失踪事件の本部も、このサスケのいる南側の見張り小屋に置かれていた。

 ぐるりと辺りを見渡せば、見知った顔があった。少し離れた見張り台の上に、窮屈そうに立つ特別上忍の秋道チョウジの姿が見えた。チョウジばブンブンと俺に手を振った後、お菓子をぱりぱりと食べており、他の2人の下忍たちに怪訝そうな顔されてた。


 失踪者の大多数は、この木の葉の郊外、街外れで姿を消しているらしい。だからこそ、ここが一番怪しいと踏んで、サスケに任されてるんだろう。

 なんてったって、サスケだし。






 一緒に上忍に昇格して、1年。しばらくは同じ任務についたりもしてたけれど、俺はすぐに木の葉を出てるから、実に半年振りの再会になる。


 再会の挨拶もそこそこに、俺は真っ直ぐにサスケを見た。サスケも、くだらねー話はすぐに打ち切って、長机に広げられた地図を顎で示した。


 今現在。この小屋の中には、俺とサスケしかいなかった。全員、見張りについてるんだろう。



「守備は?」
「……思わしくはないな」
「ってーと?」
「オレたちがこうして昼夜問わずに見張りをしていても……失踪者は後を絶たない」
「…………」
「これを見ろ」
「ん?」


 サスケが示した地図には、赤い×が無数に記されてた。ほとんどが、この見張り台近くに集中してた。



「このしるしは、失踪者が最後に目撃された場所を示している。ほとんどが、この見張り台の近く。郊外だ」
「一応、里の全域には、この見張り台には近づけさせねーようにって、通達したんだろ?」
「当たり前だ。だが……近くに工場がある。連絡は再三に渡り行っているが、休む訳にもいかないと、工場は未だ稼動中だ」
「だったら、行方不明者の多くは、その工場に勤めてる人たちなのか?」
「ああ。ほぼ、な。だが、全く工場とは無関係の人間もいる。ここからは南門も近い。人の往来は激しいからな。それに、始めはこの辺りでは失踪者はいなかった。里の中心がほとんどだったんだ」
「どちらにしろ、人の往来が激しい地域なんだな……。そんだけ人がいんのに、実際にさらわれたところを見た人間がいないのか」
「早合点だな。さらわれたかどうかさえ、ハッキリしていないと五代目はお前に言わなかったか? 家出か失踪、誘拐……事件性はあるが、可能性が絞りきれない。だが、これだけの人がいなくなれば、多少なりとも痕跡は掴めそうな気がするが」
「だな……」


 見張りをしているサスケも、訳分かんねーって様子だった。



「あ。そうだ。忍で行方不明なった人間はいねーの?」
「いるぞ」
「へえー。誰?」
「………驚くなよ」
「うん?」

 
 やけに念を押すサスケ。俺が驚くような人物だってのか?

 サスケは離れたチョウジの方をチラリと見て……溜息をついた。


「山中いの、だ」
「…………………………はぁっ!?」

 何故、サスケがチョウジを見たのか理由はすぐに分かった。だったら、チョウジは気が気じゃないだろう。



 何せ、いのとチョウジともう一人……奈良シカマルは、下忍時代からつるんでる仲だ。特に親しい仲間がこの事件に巻き込まれたとなれば……辛過ぎる。

 俺だって、もしサスケや同じ下忍時代にチームを組んでたサクラちゃんが失踪したって聞いたら、感情を抑える自信がない。

 最悪の可能性を思わず思い描いて、俺は唇をかみ締めていた。



「他にも、下忍が何人か、この事件に巻き込まれてる」
「……随分とまあ、不自然すぎるってばよ?」
「だが、これで事件性が高いと方向が定まった。いのが行方不明になるなんて、考えられないからな」
「確かに。家出とか、自分の意思で居なくなるなんてありえねーかんな。いのは」
「………………」

 無事でいるんだろうか、と懸念して。

 ふと、俺は気付いたことを口にした。


「じゃあ、シカマルもこの事件に当たってんのか?」
「いや。ヤツは今、違う任務についてる」
「こんな時に、暗殺の任務がきてんのかよ?」
「……ナルト。お前、口を慎め。誰が聞いてるか分からない」
「へーい。でもあのシカマルが暗部なんて、未だに信じらんねーんだよ」
「……………………」


 誰よりも面倒くさがりのクセに。守りたいものを守りきれずに失ってから、シカマルは変わった。


 それは、良い変化だったのか、悪い変化だったのか。俺にはよく分かんねーけどさ。それでも、シカマルが自分で選んだ道だっていうのなら、反対はしない。



 例え辿り着いた先が……暗部という闇の世界だったとしても。その判断が、正しいのかどうかなんて、きっとシカマルにだって分かんねーだろうし。

 けど、これだけは言える。


 どんな形であったとしても。里を守るという理想と使命は、変わらないから。


「じゃ、まあこれから頼むわ。サスケ。俺、お前の補佐につくように綱手のばっちゃんに言われてっからさ」
「……お前が来たところで役に立つとも思えんが」
「あー! お前ってば、どーしてそう俺の実力を認めねーんだか! 俺が帰ってきたからには、事件解決だぜっ!!」
「フン。お前は……いつまでも変わらないな」
「サスケぇ。馬鹿にしただろ。今」
「褒めたんだ」
「嘘つけええっ!!」


 久しぶりのサスケとの話に、何だか嬉しくなって。

 俺は、怒りながらも、何故か暖かい気持ちになっていた。






 この事件。ぜってー、俺の手で解決してやるってばよ!




























 俺がサスケの補佐についてから、数日が流れていた。

 確かに、これだけの忍が見張り、巡回しているのにも関わらず、毎日1人から多くて10人以上も、日々行方不明者は後を絶たなくなっている。

 その内、夜間は家から出る人間が少なくなり、木の葉からは活気が失われつつあった。





「サスケさん! ナルトさん!」


 動きがあったのは、子の刻間近のことだった。

 突然3人の忍が飛び込んできた。まだ子供だ。スリーマンセルは、下忍1人、アカデミー生2人で隊を組ませている。声を上げたのは、そのチームの中の下忍だった。


 ……さすがに、中忍クラスをポコポコ導入するわけもいかないだろうからな。



「どうした?」

 サスケが促す。

「その、山小屋の辺りに湯気が見えます!」
「湯気?」
「おそらく、山小屋に引いてある温泉の蛇口から、湯が出ているかと思われます」
「……人がいる、ということか」
「ええ。ですがあの辺りは、今、立ち入り禁止区域に指定されており、周辺には結界が張ってあったはずで……」
「そうだな……」

 サスケは、振り返って俺を見た。何を言いたいのかが分かって、俺は頷いた。


「各員、他の忍に伝達し、持ち場に戻って待機だ。俺とナルトで見てくる。合図を待て」
「はっ!」

 3人は、情報を伝えるために走り出して行った。



「行くぞ、ナルト!」
「ああっ! まかせとけって!」
「でしゃばるなよ。ウスラトンカチが」
「相変わらずだなー。なんか、懐かしいぜっ」


 久しぶりのサスケとのチームに思わず微笑みながら、先に飛び出したサスケの背を追って、湯気の上がる方向へと駆け出した。















 そう。





 そこで。俺たちは出会ったんだよな?



 それが……俺と彼女、との始まりだった。



 



































さて。。
こちらは、ナルト編。
ナルトから見た事件の一部始終となります。
何しろ、物語の進行に関しては、
女主人公側からでは全容を解明できないので…(汗)

はじめは、物語の合間にナルトサイドを入れる予定でしたが、
話が飛んだりするので、
それなら別に作ってしまえと、
こんな形となりました。。

あはははは。
私、本当にこういう視点変えて同じ話書くの好きなんですよね〜。。





更新日時:2008.5.7






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