狭間での出会い

ナルト編

2


















(お前は向こうへ行け。ナルト)
(言われなくたって、分かってるってばよ!)



 言葉なく、手信号だけで会話を行い、サスケの示した位置へと素早く移動して。俺は木々の葉の間から、小屋の様子を伺った。

 サスケは小屋から見て南側。俺は東側についた。俺からもサスケからも、小屋のドアが見える位置。この小屋には、裏口はない。入り口は一つだ。




 現場に向かう道の途中まで、小屋からは湯気が出ていたが、俺とサスケが小屋に到着した時には、消えてなくなっていた。代わりに、小屋の前には随分と薄着で服の汚れた格好の女が一人、膝を抱えてうずくまっているだけだった。


 あの格好は……寝間着か?



 こんな森の中。寝間着の女が一人。進入禁止区域で。

 しかも、一般人のように見える。気配も消していない。


 始めは、間者かと思ったが、これが間者なら、あまりにもお粗末だ。普通忍なら、どんな姿格好をしていても、隠密行動が基本だ。

 湯気を出したのは、仲間への合図か。

 けど、合図だとしても、誰にでも見え、分かるような合図をするのはあまりにも馬鹿だってばよ。



(ナルト……どう出る?)
(サスケ。声、かけるぞ)


 手信号で、サスケに向かって合図して。俺は息を吸い込んだ。

 女は、おそらく俺たちの存在には気付いていない。



 忍の世界では、見た目で判断することほど怖いものはないけど……こりゃ論外だな。




「……何者だ?」


 俺は、姿を隠したまま、女に声をかけた。



「ぎゃあ!?」



 なんつー色気のねえ、驚き方。

 女は20代半ばと思われた。なら、曲がりなりにも年頃の女が、驚くのに『ぎゃあ』っつーのはねーだろ。



 ……まあ、いいか。話を続けよう。


「こんなところで何をしている?」
「何してるって……道に迷ったから、街へ向かってるの。そういうアンタこそ、こんなところで何してるの?」

 震えている声。俺たちが見えないからだろう。

 俺は、気配を消し、もう少しだけ近くに寄ると、女の顔がハッキリと見えてきた。




 と、そこで気が付いたことがある。

 足が……ぐちゃぐちゃだ。サンダル履きで走り続けたんだろう。擦り傷、切り傷で、足先が傷だらけだ。足の裏は、もっと酷いことになってるだろう。


 だが、これで確信する。こいつは、完全に一般人だ。しかも、この暗闇の中をサンダルで走り続けたんだろう。何かから、逃げるように。

 敵ならもう少しマシな格好で、もうちょっとわざとらしく驚くし、もうちょっとマシな事を言うだろう。だが、向こうからは俺たちが見えない恐怖からか、辺りをキョロキョロと、怯えながら後ずさりしている。本気で怖がってるようだった。



 これ以上、姿を隠すのは得策じゃない。多分、サスケだってそう思ってるはずだってばよ。




「……湯気が見えたからな。偵察だってばよ。……オイ。こいつ、本当に迷子みたいだぞ?」

 サスケにそう声をかけると。

「らしいな」

 間髪入れずに答えが返ってきた。



 が、女はサスケの返答に、さらに驚いたように肩を震わせる。俺の他にも人がいることに、今気が付いたようだった。


「何なの!? 誰!?」


 俺は溜息交じりにサスケに合図して、俺たちは同時に飛び出した。




 女の目の前に、サスケと共に降り立つ。


 女は、おそらく元は白だと思われるシャツとズボンを着ていた。その上から、ピンクのカーディガンを着ていたが、服は泥だらけだった。木の枝に引っかいたであろう傷も、少なくはなかった。


 女は、不思議そうに俺たちを見比べ、一瞬後、慌てたように声を張り上げた。



「あのっ!」
「なんだ?」


 サスケが、怪訝そうに呟くと。



「あの、この先にある街って、まさか木の葉の里ですか?」
「そうだが……」
「本当に……ここは、火の国……」
「当然だろう。木の葉の里は、火の国の忍里だ」



 何がまさかなんだか分かんねーけど、サスケとのやり取りで、この女は本気で迷子なんだなと思った。しかも、火の国ってことに驚いてるってことは、他の国から来たのか?



 けど。なんだろう?

 この女……どっかで、見たことがある……?



「おい、お前。名前、なんて言うんだ?」
「へ?」

 だが、サスケはさして気にもしていない素振りで、女に名前を聞いた。が、女はすぐには答えない。何かに驚いたように、口をパクパクとさせているだけだった。

「もう一度聞く。名前は何だ?」
「……

 その返答に、サスケは舌打ちをした。



 ……なんだ?

 サスケは、少し脱力したようだった。


「特徴は似ているが……違うな」
「何が?」

 よく分からなくて、サスケに首を傾げながら聞いてみると。サスケはめちゃくちゃ不機嫌そうに俺を睨んだ。

「ウスラトンカチが。昨日更新された行方不明者のリスト、見なかったのか」
「見たってば……ああ!」


 そうだ! 資料の中にあった写真!

 サスケに言われて気が付いたけど……この女にめちゃくちゃ似た……っていうか、瓜二つの写真があったはずだってばよ!



 が、そういった俺を、サスケはひどく不満そうに見てる。



 大目に見て欲しいってばよ〜。サスケー。

 なにしろ、失踪・行方不明者のリストには、全部で300人以上の顔と名前、そして特徴があんだぜ? 俺が里に戻って数日。今までの失踪者を含め、日々更新されるリストの全ての人間を、そんなすぐに覚えらんねーよ。

 そういう方面は、昔から俺ってば、からっきしダメだし。



「…………」
「そっくりだってばよ」
「ああ。だが名前が違う。別人かもしれない」
「とりあえず、保護して連れてけば分かるよな」


 ひとしきり俺を睨んだことで怒りを消化したらしいサスケと俺で話を進めていると、女……は、溜息交じりに間から口を挟んできた。


「……どうでも良いんだけど、それよりあんたたちは何者なの?」

 まあ、ここで名前を教えても差し支えない気もするから……とサスケを見ると、サスケは疲れたように息をついた。

「俺はうちはサスケ」

 サスケが自己紹介したので、俺も後に続く。

「俺は、うずまきナルトだってばよ。見ての通り、木の葉の忍」

 木の葉の里を知ってるが、行ったことのないような素振りの女は……サスケと俺の名前を聞くと、大きく口を開けて驚き、叫んだ。




「じゃあ今、大蛇丸の『木の葉崩し』から何年経ってんのよ!?」



 ……?


 どういう、ことだ?


 サスケに再び視線を送ると、奴は軽く頷いた。


「何故そんなことを聞く?」
「……へ?」


 サスケのツッコミに、という女は口ごもる。



 なんか、すっげー、怪しい女だ。コイツ。

 でも、ゆるく殺気を出しているサスケに、全然気付いていない。少しでも出来る人間なら……多少影響があっても良いだろうが。

 という女は、素直に俺やサスケの言葉にのみ、反応を示している。殺気に影響を受けている様子はない。少しでも鍛錬を積んだ人間なら、皮脂や汗など、どこかしらに動きがあっても良いはずなのに。


 だが、木の葉崩しを知っていて、木の葉の里を知らない。

 大蛇丸を知っていて、あれから何年経ってるかを知らないなんて、有り得るのか?


「え、えっと……」
「知りたいなら教えてやる。6年だ。だが何故、そんなことを聞く必要がある?」
「や、あの……あたし、記憶喪失みたいで」
「………」
「ここへ来る前のこと、全然覚えてないみたいで。で、『木の葉くずし』っていうのは覚えていたんで、聞いてみただけデス」


 ……嘘、だな。

 こんな明らかに分かりやすく、嘘ってつくもんなのか? ってくらい、それが嘘だと分かったが。


 まあ、別に影響はないだろう。それよりも、なんでこのという女が、行方居不明者と同じ顔であるにも関わらず、全くの別人なのかの方が気になる。


 その理由が、きっとコイツの嘘と、失踪者の原因に辿り着くのだと俺は思った。


(サスケ……)
(ああ。とりあえず、連れて行こう)
(俺が抱えてく)
(……分かった。油断するな)


 という女に悟られぬよう、サインだけで交わすと、



「……じゃ、とりあえず里へ戻ってみっか」

 言いながら、に歩み寄り……抱き上げた。

「ぎ、ぎゃあああっ! や、あたし重いし! いいって!」
「はあ? 軽いってばよ。それに、歩けねえだろ。その足じゃ」



 ……なんだぁ?


 ぼん、と火を噴きそうな勢いで、頬が紅潮していくのが分かった。その原因が羞恥と分かるまで、さして時間はかかんなかったけど。



 可愛いトコあんじゃん。こんくらいで赤くなっちゃって。


 面白半分に、顔を覗き込んで見ると、この闇夜の中でもはっきりと分かるくらい、まごまごしている様子だった。



 思えば俺も、数年前には俺の永遠の初恋の人、サクラちゃんと話せただけでもドキドキしたり、嬉しくてテンション上がったり、顔が熱くなったりして……純情な時期があったなあ……。

 あの時はまさか、当時の俺の先生、はたけカカシみたいに、公衆の面前でエロ本を読むような大人には絶対になるまいって思ったけれど。



 18歳の誕生日の日、イチャイチャパラダイスの上巻をカカシ先生からプレゼントされて、それを読むような大人になっちゃったんだもんなあ……。あのじっちゃんの発行した本を見て興奮したのも癪にさわるけど。



 が、多分このは、俺より全然年上だと思う。

 こういうことにきっと慣れてねーんだろうなあ。



 なんて考えながら、木の上に飛び上がると。は身を竦めた。


「!!!?」


 どうやら、こっちにも慣れていないらしい。忍と同じ動きをすることに、一般人が慣れてたら、それはそれで一般人じゃなくなるだろうけどな。



「歯ぁ食いしばってた方が良いってばよ。舌、噛むぜ」


 何も言えず、コクコクと頷き、は俺にぎゅっとつかまった。


 その様子に、俺は目を細めた。



 不安で仕方がない。その感情が、痛い程によく伝わってくる。

 けれども、俺に身体を預けてくる信頼感。




 ……変な、女だな。








 とにかく。

 に抱いた第一印象は、そんな感じだったんだってばよ。
























やっと変換が出てきても、色気のない話です。。
ここでのナルトくんは、
俗に言う「オトナル」なので、「スレナル」ジャンルではありません。。

いやーにしてもナルト、ホントにかわいいっ。。
大好きですvv





更新日時:2008.5.7






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