と名乗った女を連れて、見張り台に戻った俺とサスケ。
サスケに見張り台を任せ、とりあえず、俺が女を綱手のばあちゃんとこへ連れていくことにした。
始めはサスケが連れてくってことだったんだけれど。
なんつーか……ちょっと気になって、俺が連れて行くことにした。
しばらくは怖さを紛らわすためか、ぎゃあぎゃあ叫んでいたけれど、最後はぎゅっと目を瞑り、身を縮込ませたその小さな身体を抱きながら。
……訳わかんねーけど。
妙に緊張している自分が、居た。
狭間での出会い
ナルト編
3
警戒体制のひかれている木の葉では、特に夜の篝火の明かりは絶やせない。
家々を見渡せる箇所には忍が配置され、自警団の活動も活発だ。
事件は、昼夜問わず、繰り返されているが、発生はやっぱ夜が多くて。
一瞬前までその場に居たはずの人間が、数秒目を離したらいない、なんていうことが多かったらしいから、ほとんど見回りには意味がないことなんて分かりきってたけど。それでも、皆動かなくちゃ不安だったからかもしんねえ。集まって行動することが多くなってた。
伝達用の鷹が、先に綱手のばあちゃんのトコに連絡していたせいか、火影の屋敷に着くと、見張りのヤツが俺に目配せしてきた。
『この女が、事件の解決の糸口になるのか』ってさ。
そんなの、わかんねーってばよ。
行方不明者と外見はそっくりなのに。
何故、名前が違うのか。
キョドってんし、本人も何か隠してる。だからまずは、それを聞き出さなきゃなんねえ。
けれどそれが、失踪事件と関係があるかどうかまでは分からない。どっちかってーと、単なる家出のような気がしないでもない。
あまりにも不自然な言動が目立つから、敵か、もしくは事件と関わり合いがあるんじゃないかって予測できる程度だし。
辺りを珍しそうにキョロキョロと見ながら、後ろから付いてくる彼女を盗み見ると、目が輝いてる。まるで初めてのものを見るようだ。
状況がまるでわかってねえ感じ。
何か企んでいたとして……こんな間者もねえな。何も理解していない、普通の人間の反応か。
普通は、火影の屋敷に足を踏み入れることなんてねーし。
と。その一挙一動を見ながら、少ない情報で判断をしようとしていた自分に気が付き、苦笑した。
……どうしても観察しちまうのは、もう癖みてーなもんだなあ……。
得られる情報を、なんとかして探そうとしてる。けれどそれをしなくなったら、事件に辿り着くことは出来なくなる。
たとえ、無害そうに見えても。心までは見えねーんだからよ。
そんな風に考えてると、がぽつりと呟いた。
「さっきの警備のところもそうだったけれど、随分厳重な警備体制ね」
その言葉に、脱力する。
なんつーか……無知にも度があると思う。一般人であってもさ。この行方不明事件なことを知らねえってはありえーねだろ。
けど……里の人間じゃないなら、あり得るか。何しろ、諸国に出ていた俺だって、里に呼び戻されて帰ってくるまで、この事件のことを知らなかった。木の葉の里に来たことがない様子だったことを考えれば、知らないっていうのもありだけど……。
コイツ。ごちゃごちゃし過ぎなんだよなあ……言ってることと、行動がさ。
「……お前ってば、本当に何も知らないのか?」
立ち止まって振り向き、当の本人を見る。けれど、本当に分からない様子できょとんとした後、俺から視線を逸らしながら言った。
「き、記憶喪失なんだってさっき言ったでしょ?」
でもよ。
俺には嘘に聞こえんだけど。その『記憶喪失』って言葉。
まあ、事件のことを知らないのは本当らしいから、仕方なく説明をした。
子供がいなくなる事件から始まり、今や300人を超える大規模な失踪事件になっていること。
そして、1名も見つかっていなかった中から、自身が、リストの290に載っている人物と瓜二つなこと。
「……でも、名前が違う」
「290の人と?」
「そうなんだってば。確か290は『』とか言った。少なくとも、なんていう名前じゃなかったんだってばよ」
「…………………………そう」
たっぷり間を置いて、何かを真剣に考えながら呟いた。ここで追求したところで、大した答えは返ってこないと踏んだ俺は、再び歩き始めた。
「ここだってばよ」
綱手のばあちゃんの部屋の前まで辿り着き、軽くノックしてから声をかけた。
まあ……気配で分かっているとは思うけど。
「ナルトです。失礼します」
『ああ。入りな』
扉に手を掛けて中に入ると、後ろから気配が追って来ないことに気が付いた。見れば、は立ち止まって、あらぬ方向を向いて、考え込んでいる様子だ。
ったく、これから里長の火影に会うってーのに、余裕だな。
……バカなのか、何なのか……。
何を考えてるかなんて、俺には想像も出来なかったが。怯えている様子もない。単純にぼうっとしているように見えた。
ため息をつきながら、声をかける。
「」
「へ!?」
「来いよ」
「あ、はい」
あわてて走り寄ってくるを見た後、振り向いて綱手のばあちゃんを見ると……すげえ不機嫌そうに、を見つめていた。
まあ……当然の反応だよな。敵か味方かも分かんねーような状態で、ここに連れてきちまったからな。
「報告は受けてる。あたしは五代目火影だ。よろしくな」
「あ、と申します」
部屋には、綱手のばあちゃんしかいなかった。
多少、恐縮しながら礼をする。その仕草に、笑顔っつーか、冷笑を浮かべたばあちゃんが、見定めるような視線を送っている。
うおー。こえー。
「楽にして良いよ。にしても、ホントそっくりだねえ。これで名前まで一緒なら良かったんだけどね。失踪時の服装まで酷似している」
ばあちゃんの言葉に、家出人なら、どんなにかいいけどと思いつつ、事件との関連性がない方向も示唆してみようと考えた。
でも、全然そんなの関係がなく、単なる敵かもしんねえ確率も、拭えない。
けれど今の状況だと、コイツから失踪事件への真相へ辿り着く可能性は、最高に低い。
「でも、290は失踪してから丸1日しかたってねえし。例の事件の行方不明者っていうよりは、単なる家出人だってばよ」
けれど、綱手のばあちゃんは疲れたように、俺を睨み付けた。
「お前ねえ。資料にはよく目を通して頭に叩き込んでおきな。bQ90は、原因不明の奇病で病院へ入院中だった」
「……奇病?」
え……なんか……書いてあったっけ?
の顔は、なんとなく見たことあるって程度だし、資料の全てを覚えていない俺に、注意事項に何が書いてあったかなんて、覚えてねえしなあ。
あはは、と苦笑いを浮かべた俺から視線を外し、改めてを見るばあちゃん。
「記憶喪失だそうだねえ」
「……はい」
「そりゃ、喪失じゃなくて、ないんだよ」
「ない?」
「ああ。お前さんは、約20年間。正確に言うと18年もの間、病院のベットの上にいた」
「…………………………はあ?」
素っ頓狂な声を上げる。俺も驚いた。記憶喪失、いや、記憶がない? ベットの上? なんだそりゃ。
とそこで。この部屋に近づいてくる気配に気が付いた。ばあちゃんが微動だにしない。ってことは、知り合いか何かなのか。
が、警戒は怠らない。いつでも動けるように、少しだけばあちゃんに寄った。
「し、失礼します!」
慌しく部屋に走りこんだのは、見たこともない、じーさんとばーさんだった。着てるものが2人共スーツで。金持ちっぽい。
そんな2人が、じっとを見つめた後、いきなり抱きついたのだ!
「! 良かったなあ、無事で!」
「随分心配したんだよ!」
あまりにも突然のことからか、抱きつかれたは硬直しているようで、動かない。
『』? ああ、そうか。関係者なのか。
せきをきったように号泣し始めた2人に、綱手のばあちゃんが声をかける。
「夜中に呼び立ててすまなかったね」
「とんでもない! 見つかったら、いつでもご連絡くださいとお願いしてありましたし」
「本当に娘なんだね。間違いないかい?」
「はい! 見間違えるはずもありません! なにより、服も同じですし……昨日病院のベットから突然いなくなった、に違いありません!」
言い切るじーさんたちに対して、は酷く慌てた様子で叫んでいた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! あたしはなんて名前じゃない!」
「何を言ってるんだ。ああ、そうか。18年も眠っていたから、記憶が混乱しているんだな?」
「そりゃ昨日、全然知らない場所で目を覚まして、ここまで来たけれど、18年も眠ってたなんて、そんなこと有り得ない!」
……食い違う現実。嘘をついているのは、なのか、このじーさんたちの方か。
俺はそのやりとりをじっと見つめていた。
待てよ。
おかしくねーか?
だっては……俺たちに聞いたんだぜ?
『木の葉崩しから、何年経ってるのか』ってさ。
記憶が全くない状態なら、あの事件のことを知るはずない。
18年ベットの上で、起きた状態なのなら、何かしらの手段で、それを知ることも出来たはずだ。けれど、18年眠っていた? 一度も目を覚まさなかったのなら、事態は違ってくる。
それに今更気が付いたけどよ。あの時のことを、『木の葉崩し』と呼んでいるのは、忍以外にない。しかも忍が、わざわざ一般人に、事件のことを話す訳がない。
……とすればコイツは『』という人間とは別人ってことになる。
どうして忍しか知らない『木の葉崩し』のことを知っていたのかは、今は置いといて、俺は改めて確認するために口を挟んだ。
「ちょっと待てってくれってばよ。18年、眠っていた? ってことは、眠っている状態で行方不明になったってことか?」
俺の言葉に、ばっちゃんがじーさんたちを見る。
「そうだよ。間違っていませんね?」
「はい! 昨日の朝、眠ったままの状態で忽然といなくなったんです!」
眠ったまま……ね。
やっぱり、何か話が食い違ってるってばよ。
俺は改めてを見た。
「……で、は、気が付いたら森の中だったんだな?」
「うん。昨日の……夕方だったと思う。それから一晩かけて、あの小屋へ着いたから……」
の言うことを信じれば、その間に情報を得られた可能性は少ないってことか。
どっちが嘘をついてんだ? 確かには、何か知っていることを隠している様子だけれど、この慌てようは、本気で知らない感じだ。かといって、このじーさんたちが嘘をついているというようにも見えない。現に、捜索願いが出され、そこに病院で眠っていた情報も掲載されている。嘘をつくにしても、病院関係者に確認を取れば、たとえ偽証したとしても分かることだ。
けれど確実に言えることは、家出人の可能性は無くなったってことだけだ。
うー。わっかんねー。
何がどーなってるんだ?
「じゃ、帰ろう。。お前の家へ」
「そうよ。皆喜ぶわ」
その間にも、じーさんが、の腕を取る。
瞬間、は手を振り解き、叫んだ。
「だから、あたしは! なんて名前じゃない!」
「何を言ってるんだ。ああ、そうか。18年も眠っている間に、夢でも見て、勝手に思い込んでいるんだろう。夢の中ではそう呼ばれていたのかい? 家に帰ったらゆっくり、その夢の話を聞かせてくれ」
「そんなはずない!!」
「少し落ち着けば、すべてが分かるはずだ。とりあえず、家へ帰ろう」
「やめてえ!!」
完全に混乱してしまった様子で、が外へ飛び出していく。あまりの事態に、じーさんたちは困惑し、呆然とした様子でその場に崩れ落ちた。
今のままじゃ、何も解決しねえ。
とりあえず、を追いかけるとして……。
……まずは……状況の把握から、かなあ……。
「綱手のばあちゃん。この件、俺に任せてくんねえ? あのって名乗る女が、何かを隠しているのは事実のようだから、それを確認してくる」
「……そうかい。ではお前に任せる」
ばあちゃんも、釈然としない様子。何が何だか分からないって感じなんだろう。
まあ……俺もそーなんだけど。
だけど決定的に違うのは、ばあちゃんもじーさんたちも、をだと思ってるってことか。
「ところでさんの病気って、原因不明の奇病とか言ってたけど……。起き上がっても治療を受けなければ問題のある病気なんですか?」
じーさんたちに歩み寄り、立ち上がるのを助けながら聞いてみる。
「いや、身体の伝達機能が麻痺し、意識はあるのに『身体が動かせない』という病気で、起き上がれれば問題はないはずです……まさか、ああして話して、走るところを見れるとは……」
「では、しばらくさんは俺が保護します。この件、事件の真相が判明するまで、こちらに預けていただきます。彼女自身が納得しなければ、本当の意味でさんが帰ってきたことにはならないでしょうし」
「わ、分かりました。お願いします」
実際、あれがだとは思えなかったけれど、納得させるためにそう言うと、深々と一礼し、連れ添って部屋を出ていくじーさんたち。その背を見送り、俺は改めて綱手のばあちゃんを見た。
ばあちゃんは、小さく頷いた。
「あ。そうそう。コレ、発見した時の報告書。位置とか書いたんで、見てくれってばよ」
胸ポケットにしまったままの、用紙を取り出してばっちゃんに渡す。
簡単ではあったけれど、状況からして、の居たあの森を捜索するのも手だろうから。
「ナルト」
「ん?」
「あの娘の情報入手には、手段を選ぶな。例え一般人とて、何かに関わっていることは事実だ。隠し立てをするようなら……」
「わーってるよ!」
紙を受け取りながら、綱手のばあちゃんは悲痛な表情で言う。その中に、多少の焦りがあることが分かると、俺は力強く頷いた。
分かってる。この事件を、早く解決しなくちゃいけないってことぐらい。
だから、綱手のばあちゃんの言うことも分かるんだ。
俺は瞬身の術で屋敷を後にし、を追った。
忍でもない一般人を探すことなんて、簡単だしな。
印を結び、追跡用の忍術を発動させると、対象はいとも簡単に見つかった。
里の郊外に向かって走ってる。
その気配を探し当て、俺は夜の里を駆け抜けた。
俺だって、この事件。ぜってえ、解決したいと思ってる。
が何を隠していようと。
の中にあるかも知れない答えを、必ず探り出さなきゃならないのだと、俺は自分に言い聞かせた。
……そのための手段は、綱手のばあちゃんが言うように……。
選んでなんて、いられねえってばよ。
つい最近、ナルトのコミックスを、確か42巻ぐらいまで読破しました。
そのため……ここで考えてる話が、どんどん原作から離れていることを実感。
まあ、それを覚悟で書き始めたので、
原作をご存知の方は相当混乱するかもしれないですが、
別物として考えてください。
でも、決定的な瞬間をアニメで迎える前に、
何とかして終わらせたいと決意。
頑張りまッス!
更新日時:2009.1.4